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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)4871号 判決 1957年2月22日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人安藤真一の上告趣意第一、二点について。

論旨は、被告人伊藤信太郎は棉花の指定輸入実務取扱業者の業務を指揮監督するような法令上の職務を有するものではなく、原判決が同被告人にかかる職務ありとしたことは、法令の解釈を誤り事実を誤認したものであるというに帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。のみならず貿易公団法に依れば、繊維貿易公団(以下単に公団と略称する)の役職員はすべて政府職員とされ、上司の監督の下に同法一六条の定める公団の業務を行うべき一般的職務を有し、特に輸入品については、同法一七条に基いて定められた公団業務方法二二条、一六条によりその種類に応じて輸入実務取扱業者の指定並びにこれら取扱業者との輸入実務委託契約の締結に関する公団の業務を行うべき職務を有していたと共に、公団神戸支所職制並びに同分課規程等に依れば、棉花の輸入実務取扱業者と連絡し、必要な報告を徴し又は実務処理の状況につき調査する等輸入実務取扱業者を監督指導することも棉花課長たる被告人伊藤の職務に属していたことは疑をいれないところである。論旨は、なお、公団と輸入実務取扱業者との関係は私法上の契約関係に過ぎないとして、被告人伊藤の輸入実務取扱業者に対する職務関係を否認するけれども、同被告人が輸入実務取扱業者に対する公団の実務委託契約上の権利を行使することは、一面において私法上の権利行使であると同時に他面において同被告人の法令上の職権行為であると認められるのであるから、公団と輸入実務取扱業者との関係が私法上の契約だからといって、その一事を以て同被告人の職権行為を否定することはできない。尤も、原判決は所論のように、公団と輸入実務取扱業者との関係は「従的不可分の関係」であり「当事者対等の関係を前提とする単なる私法上の契約関係」ではないと判示している。そしてこの点から見ると、原判決は輸入実務取扱業者を以て公団の下級行政機関と解し、公団はこれらの者に対し行政法上の指揮監督権を有していたものとするようであり、その指揮監督権が私法上の契約にもとずく権限以上のものを意味するもののようであって、かかる指揮監督権を認めることは法令上の根拠を欠くものであること所論のとおりであるが、しかし、被告人伊藤は公団神戸支所の棉花課長として前記のごとき法令上の職務を有していたものであり、本件収賄行為はその職務に関してなされたものであると認めることができるから、刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

同第三点について。

所論は、被告人伊藤について量刑不当を主張するに過ぎず刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第四点ないし第六点について。

論旨は、第一審判決判示の第六、第七、第九の事実につき被告人塩田富造に共同正犯の責任を負わせたことは法令違反、事実誤認であるというに帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第七点について。

論旨もまた、事実誤認の主張に帰し刑訴四〇五条の上告理由に当らない(所論下請業者は、公団に対する輸入実務取扱業者の契約上の業務に関する履行補助者であるから、輸入実務委託契約上公団と下請業者との間に直接の法律関係を生ずるような特段の定がない場合でも、間接的には公団の輸入実務委託契約上の権利に服するものというべく、従って、被告人伊藤が公団の職員として下請業者を監督指導することは同被告人の職務自体には属しないとしても、その職務と密接な関係を有し同被告人の職務に関するものと解するのが相当である)。

同第八点について。

所論は、第一審判決判示第十の事実につき事実誤認を主張するに帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第九点について。

所論は、憲法三二条違反をいうが、その実質は単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして所論原審弁護人平田栄之助の控訴趣意第二点の二は、同弁護人が被告人塩田富造の弁護人として第一審判決判示第七の事実に関し事実誤認を主張するに当り、その一事由として記述したもので独立の論旨として理由齟齬を主張したものとは認められないし、原判決が所論のような事実誤認はないと判断している以上、同判決には判断遺脱の違法もない。

弁護人有安堅三の上告趣意第一点について。

しかし、原判決は、所論の指揮監督権は被告人伊藤の法令上の職務であるとの前提の下に事を論じているものと解されるから、所論引用の判例と相反する判断をしたことにはならない。すなわち、判例違反の論旨はその理由がなく、所論は、結局、同被告人の職務に関する法令の解釈を誤った違法ありと主張するに帰するところ、この点については、前記安藤弁護人の論旨第一、二点について説示したとおりである。

同第二ないし第五点について。

第二点は、被告人伊藤について量刑不当を主張するに過ぎず、第三点は、事実誤認の主張に帰し、第四点、第五点は法令違反、事実誤認の主張を出でないものであって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても、本件につき同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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